CBTC[3] 車上位置検知
前回ではCBTCの車上位置検知方式について少し触れました。今回はもう少し掘り下げてみたいと思います。移動閉そくにする為に車上位置検知方式を取らなければならないことは既に話しました。PGを用いた位置検知方式についても少しだけ説明しました。車上位置検知の方法ではGNSS、いわゆるGPSのような衛星による位置検知も車上位置検知として使えます。しかし、ビルの谷間、地下鉄、トンネルなどの影響が大きく、全線でGNSSによる位置検知を行っているシステムはまだありません。しかし、構内だけとか限定して列車の位置をGNSSを用いて検知している列車制御システムはあります。その一例として、Positive Train Control System (PTC) が米国で運用されているようです。
車上位置検知は固定閉塞と異なり、列車の位置を詳細に検知するシステムであることから、位置誤差という概念が重要になります。固定閉塞であれば、その閉そくが列車の車軸によって短絡されているかどうかだけの判断をすれば済みました。
PGと位置補正地上子を用いた絶対位置検知は、例えば位置補正地上子の設置誤差であったり、応動範囲があるために誤差が発生します。また、列車間隔制御では先行列車の位置と後続列車の位置が必要になるので、必ず車上で検出した位置を地上に伝える必要があります。そのための車上⇒地上間通信ですからね。このことは、列車の検出を車上で行った時刻とその情報が地上装置に届いた時刻が異なることを意味します。細かく言えば、車上位置検知時刻と地上で計算する列車間隔制御のための走行可能距離(Movement Authority Limit)を計算したときの時刻差があるという事です。走行可能距離を計算し、その結果が車上装置に届いた時には、実際の列車は地上装置が思っていた列車の位置よりも速度x時間差分だけ進んでいることになります。GNSSだとGNSSの検知した位置そのものが誤差を持っているのでそれも考慮が必要です。このように車上位置検知方式は誤差を考えないといけません。誤差をどのように考慮するかはシステムの考え方だと思いますが、一般的には列車の前後に誤差を吸収するだけの余裕距離を設けるとか、ブレーキパターンで考慮することが一般的でしょう。
誤差を考慮するバッファを誤差バッファと仮に呼ぶことにします。誤差バッファを大きくしておけば細かい計算や時間考慮も必要ありませんが、誤差バッファを大きくすると、無意味に列車在線範囲を長くしてしまうので、列車間隔を小さくすることができなくなります。通常、列車が走行中においては列車間隔は数十メートルあっても大きな問題にはなりませんが、軌道終端や縦列駐車をするとき等にはギリギリまで列車長を実列車長に近づけたくなる場面が出てきます。そのように考えると、時間差も補正をかけたいですし、時間差分の走行距離もできるだけ小さくしたいとすると、速度は現在の速度、加速度も現在の加速度のように何でも最大で考える事はあまり良くないと思います。これは言い換えると、誤差バッファを可変させるという事になります。誤差バッファを可変すると、考慮する事柄が意外とあります。例えば、鉄鎖区間に入った時に鎖錠をかけたのち、誤差バッファが縮み、鉄鎖区間に列車がいないと連動が判断したときに、列車の動きを想定しない連動であれば、列車が抜けたのか下がったのかが分かりません。また、列車間隔制御においても、先行列車の後部の誤差バッファが縮まるとLMAは伸びますし、逆に長くなるとLMAは短くなります。同じように自列車の在線範囲が変わっても同じようなことが起きます。このように、固定閉塞の概念をそのまま移動閉そくに使うのは色々な事柄で問題が生じるので、今までの固定概念を取りさらってゼロからシステム検討することをお勧めします。なお、本、ブログではその解決方法には触れてはいませんので、ご相談があれば直接問い合わせフォームでお問い合わせください。
車上位置検知方式の場合は、列車の移動距離から列車の位置を計算するため、分岐渡りはどちらに列車が進んでいるかを知る必要があります。転てつ器がどちらに向いているかは連動装置から知ることができますが、実際にそこを渡ったのかを判断するためには、別のセンサーが必要になります。種々の異常や故障状態をよく検討してください。意外と見落としがあるものです。